2026.02.12
そのカラオケボックスは、いつ来ても“人生の残りカス”みたいな匂いがする。壁の吸音材は、歌声よりも後悔と怨念を吸いこんでいるのだろう。それらと時間を混ぜるとクソみたいな匂いを放つのだ。クソみたいな匂いのする部屋で歌うという行為は、人生のどこかで落としたネジを探す儀式みたいなものだ。そんな場所の真ん中に、義父が座っている。 義父は七十代。箱職人で、木と紙と、昭和と平成の湿気でできている。そして、酒が一滴も飲めない。「飲めるけどな」と義父は強がるが、ほとんど酒が飲めない老人は、ブコウスキーの小説に出てきたら、たぶん一行…...